Item No. :KYSL028
Designer:Kyllikki Salmenhaara
Maker:Arabia / Arabia Art Department
Size :H:107mm φ:85mm
Kyllikki Salmenhaar(キーリッキ・サルメンハーラ)によってARABIA(アラビア)の芸術部門で制作されたマグカップ。
厚みのある下部から力強く立ち上がる轆轤目が際立つ、造形の力強さが印象的な作品です。
黒褐色の釉薬は重厚な質感を生み出し、フォルムと相まって強い存在感を放っています。
カップと滑らかに繋がる、幅広で安定感のある持ち手の造形力も彼女の特徴のひとつ。
作風から、1957年から1961年頃の作品と推測されます。
サインは『ARABIA KS』。
※目立つダメージなく良好な状態です。
Kyllikki Salmenhaara(キーリッキ・サルメンハーラ)は、卓越した轆轤技術を芸術の域へと高めた、 20世紀フィンランド陶芸を代表する最も優れた陶芸家の一人です。 生涯にわたり陶芸の研究と教育に尽力しました。
1938年から中央美術工芸学校でElsa Elenius(エルサ・エレニウス)のもと陶芸を専攻。 在学中から学内コンテストで最優秀賞を受賞するなど、早くからその才能を示していました。
卒業後は3年間、Kauklahti Glassworks(カウクラハティ・ガラス工場)でガラスデザイナーとして働き、 1946年にはデンマークのSaxbo(サクスボ)で釉薬研究を学び、 釉薬化学者として知られるNathalie Krebs(ナタリー・クレブス)の指導を受けました。 ここで培われた釉薬研究の経験は、後の彼女の作品に見られる独特の釉薬表現の基礎となりました。
その後Sakari Vapaavuori(サカリ・ヴァーパヴオリ)のスタジオを経て、 1947年にArabia(アラビア)へ入社しました。 当初は応用美術部門の責任者であったOlga Osol(オルガ・オソル)のアシスタントとして働いていましたが、 1950年に美術部門へ移籍し、1961年まで在籍しました。 陶土や釉薬の組成、焼成などの研究を進めながら、 素材の質感を活かした釉薬表現と轆轤による力強い造形を特徴とする作品を生み出しました。
1956年にはアメリカに滞在し、当時発展しつつあったスタジオ・セラミックスの動向に触れたことが、 その後の自由で力強い造形表現へとつながったとされています。
彼女の作品は国際的にも高く評価され、ミラノ・トリエンナーレでは 1951年に銀メダル、1954年に名誉賞、1957年にグランプリ、1960年に金メダルを受賞し、 出品したすべての回で受賞を果たしました。
制作中、粘土に混入していた刃物で指を負傷する事故をきっかけにArabiaを去り、 1961年から台湾の大学で陶芸教育に携わりました。 1963年から亡くなる1981年まで芸術デザイン学校およびヘルシンキ芸術デザイン大学で 教育者・研究者として活動しました。
1974年には長年の研究と経験をまとめた著書『Keramiikka』を刊行。 陶芸材料、轆轤技術、土や釉薬の調合、焼成などを体系的にまとめたこの書籍は、 フィンランドの陶芸教育と研究に大きな影響を与えました。
その作品と研究、教育活動を通じて、 Salmenhaaraは20世紀フィンランド陶芸に大きな足跡を残しました。
Arabia Art Department(芸術部門)は, 1932年にKurt Ekholm(クルト・エクホルム)により組織化され, 翌1933年にEkholmがディレクターに就任することで, 部門としての体制が確立されました。
芸術部門は, 工場内においてアーティストに自由な制作環境を提供する独立的な場として機能し, 工業製品から一定の距離を保ちながら創作活動を行うことを可能にしました。 その成果は, 素材・釉薬・成形技術に関する実験を通じて工業製品へと還元され, 芸術と産業の相互作用を生み出しました。 また, Arabiaにおける文化的アイデンティティを体現し, 対外的に発信する役割も担いました。
このような理念は, 中央美術工芸学校において指導的役割を担ったArttu Brummer(アルットゥ・ブルンメル)が重視した手工芸および芸術の価値に基づく思想を背景としており, 同校においてElsa Elenius(エルサ・エレニウス)の指導のもと育成された人材によって具現化されました。 Ekholmによる芸術部門の制度化は, こうした教育的基盤を産業の現場において再編成したものと位置づけられます。
芸術部門には, Toini Muona (トイニ・ムオナ), Aune Siimes (アウネ・シーメス), Michael Schilkin (ミハエル・シルキン), Birger Kaipiainen (ビルゲル・カイピアイネン), Rut Bryk (ルート・ブリュック), Kyllikki Salmenhaara (キーリッキ・サルメンハーラ), Oiva Toikka (オイヴァ・トイッカ) らが所属しました。 また, Friedl Kjellberg(フリードル・チェルベリ)は1924年よりArabiaに在籍し, 芸術部門の組織化以前から活動していた作家の一人であり, 部門成立後も重要なメンバーとして位置づけられ, 1948年には芸術部門のディレクターに就任しました。
芸術部門の作家たちは, Toini MuonaやKyllikki Salmenhaaraに代表される, 轆轤成形や釉薬表現に基づく陶芸と, Birger KaipiainenやRut Brykに代表される, レリーフや陶板を用いた装飾的・物語的表現という二つの系譜を形成しました。 両者は対照的でありながら, 芸術部門における表現の幅と奥行きを広げる役割を果たしました。
芸術部門の活動は国際展においても高く評価され, 1930年代からパリ万博などで継続的に受賞を重ねました。 特に1950年代から1960年にかけてのミラノ・トリエンナーレでは, Rut Bryk(1951), Kyllikki Salmenhaara(1957), Birger Kaipiainen(1960)がグランプリに輝いたほか, 名誉賞においてもBirger Kaipiainen, Michael Schilkin(1951), Rut Bryk, Toini Muona, Kyllikki Salmenhaara(1954)らが選ばれ, Aune Siimes(1954)は金賞を受賞しています。 とりわけKyllikki Salmenhaaraは, 1951年から1960年にかけてグランプリを含む4回連続で受賞するなど, 芸術部門の国際的地位を支える重要な存在となりました。
1970年代前半には組織再編に伴い, 芸術部門はAtelier部門へと名称および機能が移行し, 独立した部門としての役割はこの時期に一つの区切りを迎えました。
その理念は現在にも受け継がれ, Art Department Societyの活動にも引き継がれています。
Arabiaは1873年、ヘルシンキ郊外のアラビア地区にスウェーデンの陶磁器メーカー Rörstrand(ロールストランド)の子会社として設立され、翌1874年に操業を開始しました。 1916年にはRörstrandの資本から離れ、フィンランド企業として独立します。
1929年には全長112メートルにおよぶ当時世界最大級のトンネル窯が導入され、 生産の効率化と大量生産体制が確立されました。 これによりArabiaはヨーロッパ有数の陶磁器工場へと発展していきます。
1932年にはKurt Ekholm(クルト・エクホルム)がアートディレクターに就任し、 Arabiaにおける芸術活動を芸術部門として組織化。 作家のための制作環境を整え、プロダクトとアートピースを並行して発展させる体制を築きました。
Arabiaの大きな特徴は、芸術部門、応用芸術部門、プロダクトデザイン部門という 三つの分野が相互に関わりながら製品開発を行ってきたことにあります。
芸術部門にはToini Muona(トイニ・ムオナ)、Friedl Kjellberg(フリードル・チェルベリ)、 Michael Schilkin(ミカエル・シルキン)、Birger Kaipiainen(ビルガー・カイピアイネン)、 Rut Bryk(ルート・ブリュック)、Kyllikki Salmenhaara(キーリッキ・サルメンハーラ)らが参加。 その作品は1930年代から国際的な評価を獲得し、Arabiaの文化的側面を担うとともに、 フィンランド陶芸の発展に重要な役割を果たしました。
1940年代にはFriedl Kjellbergが蛍手の技法を用いたRice Porcelainを開発。 1950年から量産が開始され、1974年まで続くロングセラーとなり、 Arabiaを代表する芸術磁器として国際的に高い評価を受けました。
Ekholmは1930年代に北欧で広がった機能主義の流れを背景に、 1935年にテーブルウェアARシリーズ(SINIVALKO)を発表し、 後の北欧モダンデザインの方向性を示しました。
1945年にはKaj Franck(カイ・フランク)がデザイナーとして入社し、 Kaarina Aho(カーリナ・アホ)やUlla Procopé(ウラ・プロコペ)らとともに プロダクトデザインの刷新を進めました。 1953年に発表されたKiltaシリーズは、シンプルな幾何学フォルムと多用途性を特徴とする 革新的なモダンデザインのテーブルウェアとして大きな成功を収めました。
Arabiaは1930年代から数多くの受賞歴を誇りますが、特に1950年代の ミラノ・トリエンナーレ(1951・1954・1957)では、 芸術部門の作家の作品に加えデザイナーによるプロダクトも数多く受賞し、 世界的な評価を確立しました。
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